横綱の名を冠した「白鵬米」いざ商標登録出願へ!

「白鵬米」商標登録へ…特許庁へ出願手続き

横綱・白鵬(27)=宮城野=が北海道滝川市と協力して販売している「白鵬米」をこのほど、特許庁へ商標登録の出願手続きを行ったことが17日、分かった。

白鵬米は2年前から稲作が難しい母国モンゴルでの栽培を目指し滝川市と協力し研究開始。日本国内では「白鵬米」ブランドで販売し現在は、都内のホテル、大手百貨店などで扱われるなど販路が拡大している。こうした状況に第三者が無断で「白鵬米」のブランドを使用する恐れが出てきたため関係者が商標登録の出願を行った。力士のしこ名が入った商品の商標登録は珍しいが、それほど「白鵬米」の人気が高まった表れでもある。

【2012/10/18 スポーツ報知より引用】

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こんにちは。
iRify特許事務所・弁理士の河合光一です。

前回の野口五郎さんの特許に続き、今回も有名人の話題を基にして商標の解説をしたいと思います。

その有名人とは、モンゴル出身で宮城野部屋所属の力士である、平成の大横綱・白鵬関。その名を冠した「白鵬米」を関係者が商標登録出願したようです。

ブランドを守り育てていくには、商標権が盾となり剣となります。賢明な経営判断ですね。

なお、特許庁のWebページ(データベース)には、商標「白鵬米」の情報はまだ反映されていないようです。

周知・著名表示へのただ乗り、周知・著名表示の希釈化、汚染

バツ

事業規模が大きくなると、そこで使用されている商標(商品名・サービス名)を他人に真似される危険性が高まります。

商標や不正競争防止法の世界では、長年の営業活動や積極的な宣伝広告によって他者が築き上げた営業上の信用や名声に便乗することを「ただ乗り(フリーライド)」と呼んでいます。

有名な商品名やサービス名と同一・類似の言葉(ブランド)を、無断で自社の製品やサービスに使用して売り上げを伸ばすような行為が、この典型例です。

商品名・サービス名をブランドと呼ばれる程度にまで育て、需要者の信頼を得るのは容易ではありません。
優れた商品・サービスを提供するだけでなく、通常は宣伝広告活動やアフターサービスなど多くの労力や時間、費用を投入する必要があります。

せっかく築き上げたブランドイメージに他人がフリーライドすれば、それまでの企業努力の成果が薄められ、商標の希釈化(ダイリューション)につながります。商標の希釈化とは、有名な商標を他人が勝手に様々な商品・サービスに使用することで、その商標の機能が弱められてしまうことをいいます。

また、劣悪な商品・サービスに使用されたり、ブランドイメージからほど遠い商品・サービスに使用されれば、それを本物の商品・サービスであると誤認した需要者に失望されてしまう可能性があります。これを、商標が汚染(ポリューション)されるといいます。

例えば、高級な宝石にのみ使用している商標と同じ言葉を風俗店の看板に使用されてしまえば、ブランドイメージは傷付きますよね。

商標法での保護、不正競争防止法での保護

商品名・サービス名へのフリーライドを防ぐのに有効なのが、商標登録です。

商品名・サービス名を商標登録すれば、商標権者として他人の無断使用を排除することができます(商標法5条・37条、36条)。 日本で商標登録されれば、その効力は日本全国に及びます。

ただし、指定商品・役務(権利を要求した商品・サービス)に似ていない商品やサービスに使用されている場合は、商標権の効力は及びません。

不正競争防止法で保護される場合もあります。
商標と違い、特許庁へ出願し登録を受ける必要はありません。また、模倣されている商品・サービスが“正規品”とは異なっていても侵害を問えることが特徴です。

ただし、商品名・サービス名が有名(周知、著名)である必要があり、この要件をクリアするのが困難です。裁判所で有名であることを立証するのは容易ではありません。

そのため、少なくともコアビジネスについては、不正競争防止法を当てにせず、積極的に商標登録をしておくのが賢明です。商標権であれば、その有名度に関係なく差止請求などの権利行使をすることができます。

「綾瀬はるか米」、「向井理米」は商標登録できる?

商標登録の大切さはわかった!
では、今をときめく芸能人「綾瀬はるか」、「向井理」を含んだ商標を登録しよう。幸い「綾瀬はるか」も「向井理」も登録されていないようだし...売上げ倍増も期待できるぞ。

二人と何ら関係のない甲さんが出願した「綾瀬はるか米」、「向井理米」はどう取り扱われるのでしょうか?

「商標登録は早いもの勝ち」
よって、甲さんの「綾瀬はるか米」、「向井理米」は無事に商標登録されます♪

・・・・・なんてことにはなりません(笑)。
常識で考えれば当然ですよね。

原則として「商標登録は早いもの勝ち」ですが、例外があるのです。

例外の一つとして、こんな規定があります。

他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)は、商標登録を受けることができない(商標法4条1項8号)

「綾瀬はるか」、「向井理」が共に著名な芸名であることに疑義はないでしょう。
そうすると、「綾瀬はるか米」は著名な芸名「綾瀬はるか」を、「向井理米」は著名な芸名「向井理」を含んでいるので、商標登録は認められないことになります。

甲さんは、二人とは何ら関係がありませんから、承諾を得られる可能性は低いですしね。

なお、商標法4条1項8号は人格権保護のための規定と考えられており、有名人のみが対象とされているわけではありません。
8号の「氏名」には「著名な」という条件が付されていないので、一般人の「氏名」(フルネーム)であっても勝手に商標登録することはできません。

また、自己の氏名等と他人の氏名等が一致するときは、その他人の承諾が必要となります。つまり、本人であっても、同一の氏名を有する他人の承諾を得なければ商標登録は認められません。

もっとも、実務上は、自己の氏名等と一致する全ての他人の承諾を必要とするのではなくて、他人にはある程度の著名性が要求され、また、登録異議申立てなどにより積極的に人格権の保護を主張した場合にその者の承諾を必要とされることが多いようです。

なお、「白鵬米」は白鵬関の関係者が出願をしており、白鵬関の他に「白鵬」の名で有名な方はいないでしょうから、商標法4条1項8号が理由となって商標登録が認められないことはないでしょう。関係者であれば白鵬関の承諾を得ているはずです。

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