彦根市のキャラクター「ひこにゃん」と「ひこねのよいにゃんこ」が和解

「ひこにゃん訴訟」和解へ 類似キャラの販売製造禁止に

https://www.sankei.com/west/news/160908/wst1609080005-n1.html

滋賀県彦根市の人気キャラクター「ひこにゃん」の類似キャラ「ひこねのよいにゃんこ」の販売・製造をめぐり、商標権を侵害しているとして、市が原作者や業者に販売差し止めや、約2870万円の損害賠償などを求めた訴訟で、市は7日、大阪地裁から提示された和解条項案に基づき、19日の市議会に和解議案を提案すると発表した。被告側はすでに和解条項案に応じる上申書を同地裁に提出している。

市議会で和解議案が可決されれば、22日に同地裁で和解が成立する見込み。

和解条項案は類似キャラグッズの製造・販売を禁止するほか、グッズを製造販売した4業者が解決金計370万円を支払う内容。

「ひこにゃん」と類似キャラの「ひこねのよいにゃんこ」の原作者は同じで、市は、平成19年に出版ずみの絵本に限り類似キャラの製造・販売を認めたが、ほかの類似キャラグッズが製造・販売されたとして、昨年3月提訴していた。

【2012/11/7 産経ニュース】

こんにちは。
iRify特許事務所・弁理士の河合光一です。

皆様は、何に癒されていますか?
癒しといえば、ゆるキャラですよね(無理やり)。
ゆるキャラといえば・・・

今回は「ひこにゃん」の話題です。
彦根市の猫のキャラクターだから「ひこにゃん」なんだそうですよ。

ちなみにiRifyグループのCEOは彦田ですが、メンバーからは「彦にゃん」と呼ばれています。

・・・んなわけない(笑)

最後まで、お力を抜いてお付き合いくださいませ。

キャラクターを保護するには?

「ひこにゃん」と「ひこねのよいにゃんこ」、よく似ていますね。
http://www.47news.jp/CN/201211/CN2012110701002103.html

バラバラに見せられたら私は区別できません。

さて、キャラクターを保護するためにはどうすればよいのでしょうか?

残念ながらキャラクター法・キャラクター権といったものはないので、種々の法律を駆使して保護を検討する必要があります。
種々の法律とは、著作権法、不正競争防止法、意匠法、商標法、民法となります。

以下、厳密な正確さよりも、わかりやすさを重視して解説します。ざっくりと理解してください。

著作権法とキャラクター

現在のところ、キャラクターそのものは抽象的な人物像であり著作物ではないとされています。

しかしながら、許可なく他人が創作したキャラクターを模倣してぬいぐるみなどのグッズを販売すれば、多くの場合は間接的に著作権侵害となります。悪いことはできないことになっているのですね。間接的に侵害となる理屈は複雑なので、ここでは省きます。

著作権は、商標や意匠のように特許庁へ出願して権利が認められるものではありません。
著作物を創作した時点で著作権が発生します。権利の発生に費用と手間がかからないのです。著作権の大きなメリットですね。

ただし、例えば著作物αについて争いになった場合は、自分がそのαを創作したこと、及び、αをいつ創作したかを証明しなければなりません。この証明は容易ではありません。

また、訴えた相手に、αを真似せずにオリジナルで創作したこと(たまたま似たようなデザインになったこと)を証明されてしまうと、著作権侵害の責を問えません。

権利は容易に発生するけれど、実際に権利行使するには困難なのが著作権といえます。

なお、「ひこにゃん」と「ひこねのよいにゃんこ」の創作者(産経ニュースの記事の「原作者」)は同じです。つまり、「ひこにゃん」の著作権は原作者の下に発生しています。
ところが、原作者は彦根市に「ひこにゃん」の著作権(著作財産権)の一部を譲渡していたため、今回の騒動で原作者が著作権を持っているとはならなかったようです。

不正競争防止法とキャラクター

他人が開発した商品形態を模倣した商品(デッドコピー)を販売するような場合は、不正競争行為として罰せられることになります。

ただし、日本国内で最初に販売されてから3年経過した商品は対象外になるので、不正競争防止法に頼りきるのは得策ではありません。

また、ここでいう「模倣」とは「他人の商品の形態に依拠して、実質的に同一の形態の商品を作り出すこと」とされているので、意匠法の「類似」の範囲より狭くなります(権利範囲が狭い)。

キャラクターの絵が「商品等表示」に該当するような場合には、それを無断で使用して販売などすれば不正競争行為となり得ます。

この不正競争には、「商品等表示」が有名であること、「商品等表示」と侵害者が使用している商品等表示が似ていること、侵害者が使用している商品等表示が「商品等表示」であると間違われるおそれがあること、といった条件が必要となります。これらをすべて証明するのは大変困難です。

意匠法とキャラクター

意匠法は物品のデザインを保護するための法律です。
例えば、世の中になかった斬新なデザインの人形おもちゃを創作したのであれば、物品「人形おもちゃ」について意匠登録(意匠権の取得)が可能です。

創作した意匠を特許庁へ出願し、審査を経て登録が認められることで意匠権が発生します。
権利化するのに費用と時間がかかる点では、著作権や不正競争防止法に劣るともいえます。

しかしながら、その“デメリット”を補って余りあるメリットがあります。
意匠権は特許庁の審査官の“お墨付き”の下に発生した権利なので、侵害主張場面での証明が著作権や不正競争防止法を利用する場合に比して容易なのです。

例えば、著作権の場合に要求されるような「自分がその意匠を創作したこと、及び、いつ創作したか」の証明は不要です。
また、不正競争防止法の場合に要求されるような「その意匠が有名であることや、侵害者が実施している意匠が意匠権者の意匠であると間違われるおそれがあること」の証明も必要ありません。

さらに、侵害者が「誰の真似もせずに独力で意匠を創作した(たまたま似たようなデザインになった)!」という反論をしても、意匠権侵害を免れることはできません。
客観的に、意匠権者の意匠と侵害者の意匠とが似ていれば意匠権侵害となるのです。

意匠権を取得(意匠登録をする)場合は、原則として、その意匠(デザインした物品)を公表(ex.販売)する前に出願する必要があります。
意匠権は今まで存在しなかった新しいデザインに対して与えられるものだからです。

公表後6ヶ月以内であれば意匠登録される可能性が残りますが、不利になることには変わらないので早めの出願をお勧めします。

商標法とキャラクター

文字だけでなく、絵や図柄(いわゆるロゴマーク)についても商標登録(商標権の取得)が可能です。

キャラクターの場合、例えばその原画を商標登録することが有効です。
意匠登録する場合と同様のメリットがあるからです。

すなわち、著作権の場合に要求されるような「自分がその商標(キャラクター)を創作したこと、及び、いつ創作したか」の証明は不要となります。
また、不正競争防止法の場合に要求されるような「その商標(キャラクター)が有名であることや、侵害者が使用している商標が商標権者の商標であると間違われるおそれがあること」の証明も必要ありません。

さらに、侵害者が「誰の真似もせずに独力でキャラクターを創作した(たまたま似たようなデザインになった)!」という反論をしても、商標権侵害を免れることはできません。
客観的に、登録商標と侵害者の商標とが似ていれば商標権侵害となるのです。

キャラクター名を保護するのに最適なのが商標登録(商標権)です。

著作権では、一般にキャラクター名を保護することはできません。また、不正競争防止法で保護されるには上述した証明をしなければなりません。

そのため、仮に「ひこにゃん」を商標登録していなければ、他人が「ひこにゃん」の文字を表記してグッズを販売することを阻止することが困難となります。

子供が怖がるような人形に「ひこにゃん」と名付けて販売されてしまっては、ゆるキャラの「ひこにゃん」のイメージが損なわれてしまいますね。

商標権の効力は、似ている範囲の言葉にも及びます。「ひこにゃん」であれば、勝手に「びこにゃん」を使用している他人に対しても、高い確率でその行為をやめさせることができるのです。

キャラクターのイメージを守り、ブランド化していくには、キャラクター名の商標登録は必須といえます。

民法とキャラクター

著作権法、不正競争防止法、意匠法、及び商標法いずれによっても保護が困難な場合に、民法での保護を検討します。
この場合、集客力を有するキャラクターが「法律上保護に値する利益」に該当するかがポイントとなるようです。

再び、キャラクターを保護するには?

権利の発生に費用がかからないのが、著作権法、不正競争防止法、民法でした。
一方、意匠法、商標法で保護を受けるには、書類を作成し、費用を支払って登録する必要があります。

両者にメリット・デメリットがありますが、キャラクターの保護を厚くするには意匠登録や商標登録が有効なのがお分かりになったと思います。

「ひこにゃん」VS「ひこねのよいにゃんこ」の争いでも、彦根市は商標権を武器としていますね。

侵害者に警告書を送る場合、そこに「商標登録第○○○号」・「意匠登録第○○○号」と記載されているのといないのとでは侵害者の反応が変わるのは想像に難くないでしょう。

意匠登録や商標登録をするメリットは、他人の勝手なキャラクター・キャラクター名の使用を抑止することにもあります。
商品やWEBページに、「意匠登録第○○○号」や登録商標であることを示す「®」を表記すれば、そのキャラクター・キャラクター名は意匠登録、商標登録をするほど重視していることをアピールでき、権利行使を恐れて模倣者が減ることが期待できます。

お客様からの信用を高めていくにも有効です。
粗悪な模倣品が出回った場合に、それを阻止するための有効な権利がなければ、本家・オリジナルキャラクターのイメージも悪くなってしまうでしょう。

意匠登録が有効か、商標登録が有効かは、個別具体的に判断する必要があります。キャラクターの保護でお悩みの場合は、お気軽にご相談ください(無料)。

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